きょうのおはなし

島の夢をみる

のんきなもので、私は船着場の待合所にいた。喫茶コーナーみたいなところで、終わってない課題を片付けている。気まぐれにお土産屋さんを覗くと、小さいボールを転がして占うおもちゃのミニチュアが販売されていて、あ、それいいな、と思う。 「…ちゃん、何…

小話(かかりつけ神社)

仕事を片付けて外に出ると、夜に鈴の音が満ちていた。 なんの虫の声だろうか。いくつもの鈴を途切れずに鳴らしたら、こんな風になるだろうか。 夜をさいて響く鈴の音が、着物を着た人からチリンチリンとなる鈴の音と重なったのだろうか。あるいは目の前に横…

小話(転講師)

企業向けマナー講座の講師から外されてしまった。 「君、精神科医の知り合いもいるらしいし、メンタルヘルス講座ならできるでしょ。君のマナー講座、評判悪いんだよ、なんか型にはまってないのがさ。」 上司は何も分かっていない。私の目指すマナー講座はひ…

小話(即席シェルターの風景)

「お休みのところごめんなさいね。今回の『現象』発生は把握してますね。あなたにやってもらいたい仕事があるんです。」 上司の通達に、無意識のうちに背筋が伸びる。 「お疲れさまです、今すぐですか、すぐに出られますが」 「いえ明朝です。朝5時から指定…

カンガルー上司(1)

突然だが、うちの上司はカンガルーである。 筋骨隆々、ケンカは負け知らずで多くの妻子を持っている…との噂だが、本人は多くを語らず、今も椅子の上からの跳び膝蹴りを研究している。 「ねえ上司、上司は超強いんでしょ?」 「まあねえ」 「じゃあこんなデス…

小話

収穫の時期を外して腹が膨らめば、臨時に品評会にかけられる。 捌くのか、機が熟すのを待つのか。 今回はたぶん捌かれるのだろう、だっていくら時期ではないとはいえ、ここまで膨れてしまったならば。 問題はその中身なのだ。捌くにしても、食えるのか食えな…

小話

腹に何かが入っていますね、と検査を指示したきり、その医者はなにも言わなかった。 そのどことなく沈痛な面持ちが気にかかったけれど、看護師に促されるまま検査場に向かった。元々そういう顔の人もいるし、世の中みんな愛想が良いのも気持ちが悪い。 筒状…

小話 

ああもう、仕事が終わらない! 世間は残業しないのが美徳みたいな風潮で、なのに私ときたら目の前の仕事すら終わってくれない。そしてまだ水曜日だけどもう疲れたので正直全部放り出して帰りたい。 『軟弱だなあ!』 周りに人はいないはずなのに、すぐそばで…

小話

「こんにちは」 「はいはい」 「ボーッとできる場所はもちろん、人や物を探しているんです。あなたちょっと付き合ってくれませんか」 「はい?場所は分からんでもないけど、人ってなんだい」 「一緒にいるとぼんやりできる人です」 「いや一人でぼんやりすれ…

小話

午前3時。お囃子は終わらない。 本日何度目かの春駒が流れ出す。 足の裏も膝も腰ももう今すぐに座りたいと訴えているのに、人の輪から抜け出すことはできない。 視界に入る誰かの動きをまねてはだんだん崩れて自己流のだらっとした動きに変貌していってしま…

小話

「寿命、ハタチになったら親から聞くよな」 「うん。そうだね。」 「お前何年あった?」 「それ聞くのはマナー違反って言われてるじゃん」 「俺のも言うからさ」 「嫌だよ、なんか長くても短くても微妙な気分になるだろ」 「まあな、ははは」 〈寿命〉 なん…

小話(途中!)

人の体温が視える。たったそれだけの取るに足らない特技で職を失う日が来るなんて、思ってもみなかった。 何年も前に飲み会の席で、話題作りに一度披露しただけのしょうもない特技。大して興味もなさそうな同僚の顔まで覚えている。 それが体温測定を義務付…

小話 リテイク3

何もかもを放り出したくなるような、晴れ渡った暖かい春の午後に、私は受けるべき授業を放り出して屋上で昼寝をすることにした。こんなに晴れ渡った日に昼寝をしなくていつ昼寝をするのか。 屋上には先客がいたが、こちらに気付いていないようなので目につか…

小話 リテイク2

何か打ち明け話をする時なんかに、学校の屋上というチョイスは悪くない。こんな状況じゃなければ。 「クラス替えしたら、お前と離れ離れになって友達がいないぼっちになってそしたら俺は学校に来れなくなるかもしれない。そして引きこもり、将来に絶望して死…

小話 リテイク1

何か打ち明け話をする時なんかに、屋上というチョイスは悪くない。私の唯一無二の親友は、アンニュイに手すりに頬杖をついて、肩まで伸びた艶のある黒髪の裾を指先でもてあそびながら、口を開いた。 「クラス替えしたらさあ、あんたと離れ離れになって友達が…

小話

「クラス替えしたら君と離れ離れになって友達がいないぼっちになって僕は学校に来れなくなるかもしれない。そして引きこもり、将来に絶望して死ぬかもしれない。」 「そんなこと考えていられるのは、今が平和だからだよ。明日警察に捕まってみ?君の今のセリ…

ラベルを貼ったりはがしたりすること

ラベルを貼ったりはがしたりすることが上手な人になりたいなと最近思う。 物理的なラベルではなくて、概念のラベルだ。 ハサミに「切るもの」というラベルをつける。 しばらく使っているうちに「ねじまげ」たり、「削っ」たりすることもできることが分かる。…

会話①

独り言ばかりもつまらない。 〈目玉が3つ〉 ※煮魚を食べていたら、目玉の白いところが3つ出てきました。実際のところは、一緒に煮た魚の白目が紛れ込んでしまったのですが。 父「目玉がみっつ、あるってことにして発表したら?」 私「いやでも、突然変異とか…

もやっとする

もやもやする。 もやもやするのである。 この世の不平等に、自分の無力感に。 私はただ無事に仕事を仕舞ってお家に帰ってご飯食べてお風呂入って漫画を読みたいだけなのに。 どこかの誰かが私が漫画を読んでいる間にも、誰かが忙殺され、世の中を恨んで泣い…

自転車の廃墟

帰り道の国道で、自転車を山積みにしたトラックを見かけた。自転車の上にさらに自転車を積んである、しかして標識には引っかからないよう緻密に計算されている、そんな積み方だった。 落ちてきたら後続車たる私は死んでしまうので、気持ち距離を取りながら眺…