月の珊瑚 漫画版 ※内容に触れます

うーん、読めば読むほど、何を話しても不正確な気がしてくる…。

漫画版は、上巻で彼女を取り巻く婚姻のやりとりやブリキの彼(小)とのひと月が描かれていき、下巻でブリキの彼(大)がどういう経緯で生まれた存在なのか、彼の時代の地球がどうなっていたのか、死亡者1名の描写が描かれているのが補足としては印象的。

 

それでもこの作品の大きい部分をしめる「恋」については、感想でも語るべきなんだろうけど本人たちのものでしかなくて語りえない感じがする。不可侵領域感が否めない。

そこがすごく大切なんだけど、機械的な人間として生み出され、音声を認識できず自分も人間も見捨てて月にやってきた彼と、珪素生命として生み出され、彼と話がしたい一心で炭素生命へと変わりゆく彼女の恋の話ってのは、当人同士しか分からないだろうと思ってしまう。

えー、分からないけど、分からないが故に尊さを感じるのかもしれない。こういう風に想える人たちすごい、綺麗、みたいな。

言語による意思の疎通ができない二人が、お互いを想いあいながら時間を共に過ごすことで、結局お互いの願いを察してしまっている。そしてそれを叶えたいと願う。相手の幸せを願う。

話もできない、触れ合うこともない、それでもただ想いつづけるそれを恋と呼ぶ。だからこの作品は純粋で美しいと思えるような気がする。

 

この作品にも出てくる遺伝子の話なんかけっこう納得で、自己保存のためにより良い遺伝子を求める、その手段として感情は有効だっていうくだり。そして人間は強くなりすぎたとも。

でも本作の恋は結局そうじゃないんだよな。相手を想って動いて変わっていくことを以って恋と呼ぶって感じなんだよなあ。

空の境界もそうでしょう。関わることで相手を自分よりも想うようになり、みたいな。うーん、人間冥利に尽きるんだよね。奈須きのこの描く恋は幸せだ。だからこそ読みたい。

 

誰かのことを考えているときに人は意外と幸せだと思う。そして保身に走ると逆に不幸になると思う。考える対象は人間でも創作の登場人物でも動物でも植物でもモノでも良くて、何かを好きな人って幸せなんじゃないかなあ。

自分の身を守りたくてしたことが、果たして本当に自分を守るのか。そうじゃないかもしれない。幸せになりたかったら一方通行でも何かを想うことだなと思ったりする。