小唄(木魚を買う)

なにもかもがうまくいかないから、

木魚を買ったんだ。

丸みを帯びたボディ、

削られた木の手触り、

尻尾にも似た独特のかたち。

小さな座布団に鎮座させたら、

マレット片手に打ち鳴らすんだ。

ぽく!ぽく!ぽく!ぽく!

僕以外誰もいないこの部屋の、

ぽく!ぽく!ぽく!ぽく!

からっぽの真ん中で、

ぽく!ぽく!ぽく!ぽく!

ただ木魚を打ち鳴らす、

ぽく!ぽく!ぽく!ぽく!

音だけが響いたんだ。

 

僕が悪いなんて思いたくなかったからさ、

なにかいるなら出て行ってくれよと、

あの夜木魚を打ち鳴らしたんだ。

Amazonで買った木魚は、

思いのほか存在感があってさ。

部屋中に鳴りわたったんだ、

少しうるさいくらいにさ。

ぽく!ぽく!ぽく!ぽく!

虚から響く大きな音色で、

ぽく!ぽく!ぽく!ぽく!

なにかを浄化している気になったけれど、

ぽく!ぽく!ぽく!ぽく!

木魚を鳴らしてみたところで、

ぽく!ぽく!ぽく!ぽく!

僕という災いは消えてくれない。

 

知ってたんだ。

木魚を鳴らしたって、

問題はどこまでも僕のものだってことは。

それから僕は仕事を辞めた。

木魚は今も引き出しに眠っている。

ぽく!ぽく!ぽく!ぽく!

それでも木魚を買ったことでさ、

ぽく!ぽく!ぽく!ぽく!

行き詰まった日々に風穴が開いたんだ。

ぽく!ぽく!ぽく!ぽく!

だって僕は木魚だって買えちゃうんだから。

ぽく!ぽく!ぽく!ぽく!

当然、まだまだどこへだって行けるんだって。