結子はなぜ死んでしまったのか?(ひげひろ)

納得がいかないのである。

『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』における、真坂結子の自殺が、である。

9話は沙優が家出の理由を語る回だったけど、悲しすぎて納得できないでいる。

 

本作の主要登場人物(拾われた女子高生)であるところの沙優は、可愛くて家事もできて気遣いもできすぎる女の子だ。

物語はそんな彼女が遠く北海道から全てを投げ捨てて、自分の身体すらどうでもよく取り扱いながら、稀に見るお人好し、吉田の家にたどり着くところから始まる。

まじめな良い子の彼女が、なぜそこまで捨て身になりながら歩いてきたのか。

その理由として明かされたのが、親友の自殺とかねてより不和だった母親との決定的な亀裂だった。

 

確かに、まじめで良い子の彼女がここまで「壊れる」ためには、相応の理由が必要だったのかもしれない。

しかし足りない気がするのだ、ここまでひどい設定にした説得力が。

女子高生、もっとふわっとした理由で壊れちゃってもいいのでは?こんな理由じゃ並の大人でも潰れてしまう。というか別のドラマが始まってしまう。もう沙優と吉田の関係とか頭に入ってこなくなりかねない。

 

たまたま前クールで『ワンダーエッグプライオリティ』を観てしまった私は、10代女子の気まぐれにすら思える自殺描写に随分寛容になってしまった。あれも趣味の悪いアニメだ。人は死んだらお終いなのに、死が軽い。若者にとって死が軽いという現実があるから、ああいう描写に至ったのだろうか。

今回もまた、人が簡単に死んでしまった。女子高生という、まだまだこれからの年若い少女の命が、画面上でいとも簡単に失われた。

結子はいじめられていた。しかも、友達の沙優がいじめ女の好きな男を振ったという結子には関係のない理由で、美しい沙優の隣にいる目障りな身の程知らずの地味女として、理不尽がすぎるいじめを受けた。

結子は自分を守るために沙優との関係を切ってしまっても良かったし、沙優が伸ばした手を取って、一緒に戦っても良いはずだった。なにせいじめる方がアタマオカシイんだから、いじめられる方はなりふり構わずやりたいようにやればいい。いじめる奴は間違いなく病んでてなんらかのケアを要してるけど、そんなことは大人に任せておけばいいのだ。と持論を展開したところで、結子は戻ってきてくれない。

結子は、いじめ首謀者のアタマオカシイ理屈をそのまま呑み込んで、屋上に沙優が来るのを待ち、あなたの隣にいた私が悪いの、あなたは悪くないんだよと沙優に訴えながら、沙優の目の前で屋上から飛び降りて死んでしまった。

重い重すぎる。たった一人の親友で助けたいと願った相手に目の前でこんな死に方をされて、正気ではいられないだろう。首謀者を遅ればせながら吊し上げるか、私のせいで死んだと嘆き続けるか、そんな状況に置かれた沙優を守れる大人がいなかったという事実もまた残酷だ。結果として沙優は全てを捨てて逃げ出し、ボロボロになる。

 

この物語における現状での結子の役割は、沙優が全部投げ出して逃げ出したくなるほどの衝撃を与えること、になるのだろうか。

結子は死ぬ前にほとんどあなたのせいでいじめられてあなたのせいで死ぬんだよと言っているようにしか見えない言葉を遺して、沙優への当て付けのように死んでいったようにしか、私には見えなかった。こんな呪い、逃げて逃げて東京に来たからって解ける気がしない。救うにはあまりに重すぎる。

結局結子は沙優を恨んでいたのだろうか。沙優は結子を救おうとか一緒に戦おうとかするんじゃなくて、切り捨てるのが正解だったのか?沙優のせいで結子がいじめられたんだ、味方面しないでよと、思い知って欲しかったのだろうか。

 

沙優を不幸にするために使われた結果、結子という人間が分からなくなってしまったような気がする。

彼女は沙優にとってはじめての唯一の心が許せる友達で、守ってあげたかった相手で、きっともっと一緒にいたかった人だ。

結子にとっては、憧れの人で、手が届いてしまった代わりに手ひどいいじめを受けて、憧れの人の笑顔を曇らせてしまって、辛くって死を選んだ、その気持ちを沙優に聞いてほしいと最期に願ってしまった。理解して欲しかったのだろうか、彼女はもう死ぬことを決めていたのに、最期の沙優との対話の中で何を願ったのだろう。少女らしいヒロイックだっただろうか、「あなたは悪くないけど、あなたの笑顔を奪ったことが耐えられない」と微笑みながら逝った真意は。

単純に、結子は極端な鬱状態に陥っていたと考えるのが現実的なのだろうか。どうしたら彼女を救えたのだろう。先生なんて、あんまり当てにもならないし、沙優の場合は保護者すら当てにならないんだからそういう発想も無かっただろう。

結子の死は、いじめた者への復讐の色を纏うわけでもなく、ただ沙優を苦しめるものとなったように思う。そもそもいじめる奴に自殺というのが訴求力を持つのかどうか、私は疑問だ。そもそも自分の抱えているものすら解決できない弱さが、他人への攻撃に繋がっているような人種なのだから。

思い合った親友同士が、お互いを延々と苦しめ続ける。こんな不幸なことがあるだろうか。この重さに囚われずにいられない。

 

9話を経て、『ひげひろ』は吉田と沙優の物語ではなく、沙優と結子の物語に一変してしまう。もし作者にそういう意図が無かったとしても、そうなってしまうくらいひどい重みを持つエピソードだ。

北海道で沙優を待ち受けるのは、親友の残酷な遺言と死、そして理解のない母親だ。みんな自分のことしか考えてない。沙優を助けうるのは、東京での出会いなんだろうけれど、足りるんだろうか。悲劇が繰り返される舞台が整っているようにしか思えない。嫌な予感しかしない。

過去を忘れて捨て去って、東京で暮らすのが沙優のためだと思うくらいに、残酷だ。

 

ひどい話だ…どうやって決着させる気だろう。ここまでハートウォーミングに展開してきて、所詮みんな自分の人生で手一杯で、誰かを救うことなんてできない、土台無理な話さ、ははっ…みたいな終わり方したら許せないかもしれないけど、そうなっても全然おかしくない重さがある。

ここに来て異常なまでの重さを孕んだ『ひげひろ』。結子は沙優の不幸の舞台装置に過ぎないのか(そうだったら結構がっかりだな)、この重さを引き受けて進んでいくのか。展開が非常に気になる。

 

追記

オープニング、結構宙を飛ぶ描写が多くて、まじで今後の鬱展開を覚悟しないといけないかもしれない。親友の飛び降り自殺という重すぎる要素に対して、沙優が飛び降りる、落ちてくる、飛んでいく描写がかなり多いのだ。不吉すぎる。

今更だがオープニングはあの明るい曲調で良かったのだろうか。たぶちさんの曲は大好きだけども。嫌だな…こういう度肝は抜かれたくないな…。

 

追記2

ありていにいって、この展開はほとんど許せないのだ。女子高生一人を家出させるのに、無理解な母親に傷つき続ける10数年を沙優に与え、唯一できた親友の命を奪ったのか。腹が立って仕方がない。

このあと吉田がどれだけ活躍しようと、こんなひどい過去は上書きできないと思う。どうする気なんだ?と私は思っている。

一視聴者のただの感想ですけどね…観るのやめたらいいんだろうけど、どうするんだろと思ってしまってね…。9話以降は別物かなー。8話までは良かったけれど。って話になるのかなあ。