カンガルー上司(1)

突然だが、うちの上司はカンガルーである。

筋骨隆々、ケンカは負け知らずで多くの妻子を持っている…との噂だが、本人は多くを語らず、今も椅子の上からの跳び膝蹴りを研究している。

「ねえ上司、上司は超強いんでしょ?」

「まあねえ」

「じゃあこんなデスクワークの多い職場よりも、もっと割のいい仕事があるんじゃないの?」

「んんー、そうだねー。喧嘩は日々の安寧を保証してはくれないからね。君にもそのうち分かるさ。」

分からないと思う。私喧嘩したことないし。

上司の101回目の跳び膝蹴りは華麗に決まって、隣の部署とのスペースを区切っているパーテーションを吹っ飛ばした。上司は満足げに呟く。

「風通しのよい職場。」

被害を確認しようとして思い出した。かつて隣にあった部署は、うちの上司による度重なる破壊工作を受けて3ブロック先に移動したので、隣はがらんどうなのであった。

「…なぜ」

それでもこの会社は、パーテーションが何度上司に壊されてもすぐに買い換える。通販で簡単注文、翌日には元どおりになり、その夕方にはまた破壊されている。破壊されるために購入されるパーテーション。

「…なぜなの」

立ち上がっているパソコンの、社内お知らせ掲示板には、『経費削減。ムダを減らしましょう!』の文字。部屋を見渡すと、壁にもやはり。

ムダ、ムダムダムダムダ…ムダとは一体。

これ以上考えると頭がおかしくなりそうだったので、私は頭を軽く振って、思考回路から追い出した。

跳び膝蹴りが決まってご機嫌の上司は、いよいよ机の上にステージを変えて、ゆっくりと跳びはねている…。