笙野頼子『大地の黴』

出会ってから10年経つけど、どうしたってわからない魅惑の作家笙野頼子氏。

そういえば古市にも行った。麻吉旅館泊まってみたいなー、ちょっと趣ありすぎて怖いけど。伊勢市駅から伊勢神宮まで歩いてみたりもした。笙野頼子を育んだ土地でもあり、とびきり大きな神社がある土地でもある。笙野頼子を育んだ…とかいうと母なる感じがしてしまったりするが、なんかこう、彼女の描くフルサトっていうのは因縁が実体を持ってじっとりと絡みついてくるような、そんなイメージだ。切っても切り捨てられないから、何十年も引きずって歩いてきたような。家族も然り、解けない因縁なのだな、と思う。そうしてそこには憎しみだけじゃなくて愛情もおかしみも嫌悪も怒りも愛着も、いろいろ含まれている。そんな風に描かれている。

おそろしく現実離れしていながら、嘘がないと思わせてくれる描き方が好きだなと思う。作中人物の視界はそれを経験しているんだと、感じられる。

 

本題に移ろう。今日の1編、『大地の黴』。

すり鉢型の住宅街、その一番底にある墓場。

若くして死んだ天才(っぽい)ヴァイオリニストが眠っている。

丸くてふわふわした何かが常に地面から湧き出して、たまの来客にくっついてうちに入ってくる。

たまの来客は家族にとって親しい存在なのに、彼の職場も年齢も何一つ、家族には覚えられない。

何年にもわたって我が家を訪れ続ける来客。

一方墓場では、大きな龍の骨が鳴る…。

 

もう慣れっこになってしまっていていけないけれど、この作中で丸くてふわふわした何かの正体(おそらく「大地の黴」なのだろうが、その意味)、巨大化していく龍の骨、全ての謎は明かされないままで物語は終わる。

 

大地の黴と龍の骨は関係があるのだろうか。

大地の黴はおそらく、最初に述べたその土地のじめっとしたしがらみを含んでいるように思うけど、土着の人ならざるもの、という神秘的な顔も持たせているように思う。

龍の骨は、少女の頃墓場で欠片を拾い、数年後家から消え、またその後に大きくなった龍の骨、やがては大きくなりすぎた龍の気配と墓場で再会することになる。不思議なメロディは最初、天才ヴァイオリニストの遺志を思わせるが、次第にそれを超えて形を失った奇妙な音色が鳴り響く。

龍の骨と大地の黴の気配が絶えずそばにある、幼少期から30歳ぐらいまでの彼女と彼女の家族、そしてフルサトとの記録。

 

まずはすうっと深呼吸して、この奇妙なものたちと共に生きる空気を追体験してみる。

彼女の物語を読むとき、いつも「どこまで追求してもいいのか」が分からない。意味を持たせていいのか、意味のないものとして取り扱うべきなのか。はたまた意味を持たせるにしても、読者に恣意的なのは彼女の好むところではなさそうな気がしていて、どうやったら彼女の物語を読み解くに至れるのか、私は10年経ってもまだ分からない。

それでも笙野頼子は楽しい。物語は楽しいと、いつも思わせてくれる。

 

未熟者ながら、再読に挑戦していきたいと思っている。続くかは分からないけど。